男子高校生の巣
ふと日本に何人の男子高校生がいるのだろうと考える。
男子高校生を見るには街を歩くしかないが、街を歩けば男子高校生しか見ない。視界に入る3人中2人は男子高校生だ。しかし私の主観はさておき、統計的にはどうであろう。
なるほど、日本にはざっと330万人の高校生がいる。乱暴に男女で等分すると、男子高校生は165万人。一方で日本の人口は1億2700万人だという。
1,650,000 ÷ 127,000,000 = 0.0129
つまり日本国民の1.3%が男子高校生である。
100人中1.3人が男子高校生。
100人中1人ともう1人の乳首から上くらいが男子高校生。
少ない。
あまりにも少ない。
しかしそんな男子高校生も、日本全土に等しく分布しているわけではない。
高校の付近には当然男子高校生が多いし、オフィス街における男子高校生はさながら砂漠のオアシスのような希少性と輝きを持つ。後姿から男子高校生かと思いきや童顔のサラリーマンだったという蜃気楼も珍しくない。
どういうわけか男子高校生の多い町がある。
小金を持った核家族世帯が集う町、二子玉川。この町は男子高校生の巣である。
駅前のマクドナルドには、ポテトの油で課題のプリントを湿らしながら、大声でクラスメイトの噂話に興じる男子高校生がいる。私はその手についた油をふき取るナプキンになりたいと思い、ポテトを啄む。
蔦屋家電に併設されたスターバックスには、ピカピカのローファーを履いた男子高校生がつまらなそうに数学の問題集に向き合い、時折すぐ横の彼女と顔を寄せてクスクスと笑う。ならば私はその指先で器用に弄ばれるシャープペンシルになろうと、密かに憑依を試みる。
駅のホームにも男子高校生。
ユニクロにも男子高校生。
映画館にも男子高校生ときたら、さながらここは男子高校生の巣だ。
そう、男子高校生GOの話である。
男子高校生が現れる。
私は立ち止まり実を投げる。
男子高校生にあげる実など決まっている。現ナマである。一般的に男子高校生は現金を渇望している。
男子高校生のガードが弱ったところでハイパーボールを投げる。もちろんアンダースローである。男子高校生に傷がついたら大変である。
ぽひょん。
ハイパーボールに男子高校生が吸い込まれる。彼はバスケ部の1年生。背がなかなか伸びないことを気にしている。控えめに言っても非常に強い。
しばらく点滅を繰り返したハイパーボールが一度鈍く光り、捕獲成功を告げる。
男子高校生GETである。
私はそれを家に持ち帰り、神棚に祀る。丁寧に水浴びした後、彼のご両親に感謝しながら、床に就く。彼を産み育ててくれて、ありがとうございます。
そして男子高校生の将来に思いを巡らせる。
一緒に旅をしようか、それともジムリーダーを任せようか。
別の男子高校生とつがいにしてさらに個体値の高い男子高校生をつくろうか・・・いや、そんなことできるはずがない。一人として同じ男子高校生はいない。個体値云々ではなく、それぞれの男子高校生が既にかけがえのない存在なのだ。
そしていつも同じ結論に行きつく。
・・・野生に返そう。
翌日、二子玉川で男子高校生をハイパーボールからだす。ボールの中には催眠ガスが充満しており、男子高校生は寝ぼけた様子で目をこする。
「あれ、俺はいったい・・・・?」
男子高校生の心身の無事を見届けた私は、足早にその場を去る。
「男子高校生よ、GOOD LUCK・・・」
暗色の建物が少ない二子玉川に差す朝日は、いつも他の町より少し明るい。
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余談だが私のパソコンは『dk』と入力すると『男子高校生』と変換されるように設定してある。